日々の暮らしと時々、分子栄養学

グルテン過敏症(NCGS/NCWS)そしてパンの選び方

小麦は食べるな?

私がパン屋さんを開業して半年ほど経った2013年の夏に、『小麦は食べるな!』(ウイリアム・デイビス著)という本の翻訳本が発売されました。

当初私は、「なに言っちゃってんの?」と横目で見ていただけでした。

ところが、その頃から「寝ても休んでも取れない激しい疲労感、胃痛、身体の痛み」と言った体調に悩まされており、ドクターショッピングを重ねた挙句に翌年2014年の夏に自分が小麦にやられていたことを知ったのです。

近所のクリニックでは、「子どもがいたら、休んだことなんかにはならない。疲れるのは当たり前」と言われました。

大学病院では、いろいろ検査をした挙句「どこも悪くない」と言われました。

自分の症状をネットで検索しまくって行き当たった言葉は「副腎疲労」

そこから栄養療法クリニックで腸内環境を調べる検査や、重金属の蓄積を調べる検査、遅延性フードアレルギー検査などをして、腸内環境がとても悪くなっていることや、そのせいもあって小麦に反応していること、重金属も溜まっていることなどが分かりました。

その時の結果がコチラ↓ ぼっけぼけで全然見えませんね!

左下の長い棒が小麦と小麦グルテンで、ダントツ反応が出ています。

メロンもまあまあ反応していますが、食べても特に問題ありません。が、授乳していた時、メロンを食べると即詰まったので、メロンも合っていないのかもしれません。

 

実はそれまでも、うどんや餃子を食べると、食後すぐくらいからお腹がネジくれるようなひどい腹痛があり、内臓を吐き出したい。みたいになっていたのですが、パンを食べた時はすぐには反応がなく、例えば朝ご飯にパンを食べると午後3時頃お腹が痛い。(なので夕方はいつもお腹が痛い)という感じだったので、まさか小麦に反応しているとは思っていなかったのです。

本当に疑わなければ気が付かないものです。お腹が痛い、は最初の出産後、2009年頃から自覚していました。

検査をした時はパン屋を開業してまだ1年半でしたが、その日から小麦を食べるのを辞めました。

何度か、「もう大丈夫かな?」と食べてみましたが、その度に苦しい思いをするので、もはや私の中では小麦≠食べ物という認識になり、欲しなくなりました。

 

小麦関連疾患

ここはマニアックな話なので、めんどくさかったら飛ばしてくださいね。

小麦を食べて具合が悪くなるものには、「小麦アレルギー」「セリアック病」「ノンセリアックグルテン(小麦)過敏症」(NCGSまたはNCWS)などがあります。

それぞれの詳しい説明は調べれば出てきますので、割愛させていただきますね。

セリアック病は遺伝的な要因のある自己免疫疾患で、グルテンに含まれるペプチドに反応した抗体が自分の小腸粘膜を攻撃してしまって、栄養の吸収ができなくなってしまうという病気です。

そのために多彩な症状を呈するのですが、その中でも腹痛や全身倦怠感などなど、私の症状とも一致することが多かったです。セリアック病の場合は小麦を完全に除去するという対策を取らないでいると、結構深刻な合併症もあります。

そこで、セリアック病の検査もしました。

セリアック病は、欧米では全体の1%くらいと言われていて、日本人では0.05%とか、0.7%とか言われていて比較的少ないそうです。でも0ではないのですよね。

セリアック病はお医者さんでも知らない人が多いそうなのですが、ちょうどその時、島根大学で日本人の有病率を調べる研究が行われていることを知りました。

そこで連絡を取り、近所の大学病院で血清を採っていただいて、冷凍して島根大学に送って検査をしていただきました。

診断基準の一つになっている、組織トランスグルタミナーゼの抗体を測定しました。この時すでに小麦を除去して20日くらい経ってしまっていたのですが、ほぼ抗体は上がっておらず、セリアックの可能性はなさそうとのことでした。

その後、とある病院のドクターが白血球のHLA型(白血球の血液型のようなものだそう)を調べてくださいました。

セリアック病は、遺伝的要因が大きく影響していると言われていて、遺伝的に決定されるHLA(ヒト白血球型抗原: Human Leukocyte Antigen)において、HLA-DQ2またはHLA-DQ8が陽性である人の発症リスクは非常に高いといわれているのだそうです。

私はそれらの型ではありませんでした。この型がもともと日本人には少ないそうで、そのために日本人の患者さんが少ないと考えられています。

これでセリアックの可能性はほぼほぼない。と思われました。診断されたわけではありませんが、おそらく「非セリアック小麦過敏症(NCWS)」なのだろうと思っています。

症状は似ていてとにかくお腹が痛い、そのせいで背中も痛い、疲労感続く・・・なので、対策も同じ、小麦の除去です。

これまでグルテングルテンと言われていましたが、近年ではそれ以外にも小麦に含まれるATI、小麦胚芽凝集素、フルクタンも発症に関わっている可能性があると言われています。

過敏性腸症候群で見られるのと同じ腹部膨満、下痢、便秘、腹痛といった消化器症状に加え、もやもや感、頭痛、関節痛、しびれ、平衡感覚喪失、抑うつなどの神経症状、湿疹、発疹(吹き出物)などの皮膚症状が現れるのが特徴とされています。

いろんな人の症状を聞くと、人によって症状の出方は異なるようです。

私の長女は小麦を食べると手が痒くなるそうです。今は症状ありませんが、3歳ころからアトピーがありました。

食べると頭がモヤモヤするという人もいました。

 

なぜ?小麦過敏症になるのか?

一番気になるところですが、これについては明確な答えを見たことがありません。

ちょうど昨日、吉富信長さんがオンラインサロンで「小麦の正体」というセミナーをしてくださいました。

そこでノンセリアック小麦過敏症の原因は何でしょうか?と質問させていただきました。

もちろん、はっきりとはしていないけれど、遺伝的要因というよりは、腸のコンディションが良くないこと、小麦を頻繁に食べていることなどが要因ではないかとのお話でした。

これは全くもって納得です。私は子どもの頃から朝ご飯はパンでした。パンを作るのが大好きで、パン職人でしたから、夜ご飯以外はパンを食べる機会が多かったです。

そして、はっきりと(小麦による)腹痛が出始めたのは産後からだったのですが、妊娠中ずっと便秘でした。自分の努力では改善せず、ラキソベロンという薬をずっと飲んでいました。それ以外では生理前にやや便秘気味になることがありました。

最近知ったのですが、妊娠中や、生理前などのプロゲステロンが多くなる時には、油の消化吸収や腸の浄化にもとても重要な胆汁の生成が減るのだとか(一体何のため?)。

そのせいで便秘がちになっていたのかも。

私、妊娠中のLDL(コレステロール)が200もあったんです。(いつもは130くらいです。)

LDLは胆汁の原材料ですから胆汁での消費量が減っていたのかも。この説は十分ありえますよね。

もし、妊娠中や生理前で便秘になっている人がいたら、マグネシウムを摂る以外にも、苦い食べ物をよく噛んで食べたり、ミルクシスルを摂ったり、マイタケ、大麦、こんにゃくなどを積極的に摂ったり、してみると良いかもしれません。(あくまで「かも」ですが)

胃酸や胆汁の出が悪かったり、便秘だったりすると結果的に腸内環境が悪くなります。

実際、2014年の検査では私の腸はほんとにひどい状態でした。

年月をかけて今は胃腸は良くなっているのですが、小麦は食べたいと思わなくなりました。

今は何ともないという人も、小麦を食べられる身体でいるために、腸内環境を整えること、小麦を常食しないことは大事だと思います。

 

セリアック病でも食べられるパン?

ところで、「セリアック病の人でも食べられるパン」が作れる乳酸菌の研究がイタリアでありました。

その後どうなったかは追いかけていないのですが、簡単に説明すると、ある特定の乳酸菌の出す酵素の働きで、セリアック病の原因となるペプチドが部分的に分解されることで、セリアックの人が食べても大丈夫なパンができる。というもの。

それはあり得るかもとは思いますが、その後どうなったんだろう???

もともとのパンの醗酵は、イースト菌(サッカロミセスセレビシエ)だけではなく、乳酸菌発酵も同時におこっていました。

今もイーストを微量にして長時間醗酵させるやり方や、いわゆる野生酵母を使って時間をかけて発酵させるやり方ではそうなります。

長時間醗酵をさせると、何由来かはよく分からないけれど、プロテアーゼである程度たんぱく質が分解され、(たくさん分解してしまうと、パンが膨らまない)アミノ酸となることで、より味が濃くなり、香りも香ばしくなります。

美味しいパン・ド・カンパーニュは、窯から出したときに、お醤油が焦げたような良い匂いがするのです。

よくある袋パンでは、イースト菌をたくさん入れて、比較的短い醗酵時間なので、ほぼイースト発酵だけです。発酵時間が短くて、熟成がすすまないので、単純な香りにしかなりません。

 

人類が「パン」を焼くようになったのは、なんと6000年前!その頃はまだ醗酵していない、ただ小麦粉を水で練って焼いたものでした。

ある時、偶然によって生地が自然に醗酵してしまい、それから膨らんだパンが焼かれるようになったのだとか。

とは言え、昔の小麦は今の小麦ほどグルテンが強くなく、私たちが想像するようなふわふわのパンではなかったはず。

それからは醗酵したパン生地を少し取っておいて、次のパン生地に混ぜる。というやり方で生地を発酵させてパンが作られていったのですが、そのパン生地=種の中にはイースト菌と、乳酸菌が共生しています。アメリカの西海岸で使われてきたサワードウもその一つです。

1680年にオランダ人のレーウェンフックという人が酵母の存在を初めて確認し、19世紀初頭にようやく圧搾酵母が使われるようになったのです。それまで長い間、パンは「イースト菌」の塊を使わず、野生酵母を繋いだ種によって焼かれていたのです。

何が言いたいかというと、私も長時間醗酵でパンを焼いていたのですが、

「パンを食べた時の反応は、うどんや餃子を食べた時の反応よりもずっとマイルドだったのです。」

パンなら大丈夫ということではありません。

うどんや餃子や焼き菓子が未発酵の大豆製品だとしたら、長時間醗酵で生地をしっかりと熟成して焼いたパンは、納豆みたいな感じなんではないか?ということ。

納豆まではいかないかもしれませんが、醗酵熟成によるたんぱく質の分解によって小麦の毒性が少し和らいでいる感じがします。(あくまで個人の感想です)

もしも、時々はパンを食べる。という場合は、ライ麦の混ざったものを選んだり、とにかく少ないイーストで、長時間醗酵(一晩以上)しているパンを選ぶと良いのではないか?と思います。そこにこだわっているパン屋さんは、材料にもこだわっているはず。

私がもし、またパンを食べるとしたら、私の師匠がパンを作っている、「シニフィアンシニフィエ」のパンが食べたいなと思っています。